STEA


今、彼(私)は薄暗くて趣味の悪いダンジョンの中に居る。

ネットでオンラインにゲームが出来る事は知っていたし、
その中身もある程度知ってはいた。

私は別段ゲーマーと言う程でも無かったので手は出さなかったが、
オンラインゲームというものに熱狂的なプレイヤーが居る事も別に不思議は無かった。
だが、だが。その考えもここに来て一変した。

歩けば人の死体が散乱している。
内臓等がはみ出ている物など普通だ。
五体がバラバラになっている人間の欠片らしきものが当たり前の様に散乱している。
そしてまたそれよりも多く、怪物達の屍が累々と積み上げられていた。

私は何度も何度もこみ上げる嘔吐感に堪えた。
普通のか弱い女の子がこんなリアルな状況を見て気持ち悪くならないハズが無い。
でも何よりも嫌だったのが、生理的嫌悪の走るグロテスクな化け物相手に、
嬉々として戦いを挑み殺し合いを続けるプレイヤー達だった。

でも、彼らを嫌悪の対象とするのは間違いだとすぐに解った。
何故ならばこの世界の住人達に意思など無いのだ。
彼らを反映し操っているのは彼らの主人。
そう思うと、すごく複雑な心境だった。

私はゲーマーでは無かったが、RPGとかそういうファンタジー系のゲームは好きだった。
でもそんな世界をリアルに体験してしまうと、
今まで見てこなかった物を見せられた気がしてショックだった。
なんと言うか、私達は日々口にする食物を意識する事は殆ど皆無だけれど、
この体験では目の前で動物が殺されて、その肉を切り取って焼いて食べさせられる様な・・・
そんな当たり前の事なんだけど、無意識の中に逃げ込んでいた場面を見せられた気がしたのだ。


・・・結局、彼は一度も死ぬ事は無かったが、
彼の三人の仲間は二回程死んで、そして「生き返った」。
彼の戦場での役割は後方支援・・・つまり魔道師だったので、
実際私が痛みを感じる時とかは無かった。
あったら、多分発狂してしまっていただろうけれど。

「俺たち、死なないんだよ」

戦闘も終わり、皆が解散した後に彼は自嘲交じりにそう呟いた。

「羨ましくないよ」

私が本心からそう言うと、彼は何も言わずに笑った。



もう、帰る

そう言えば、貴方の世界は?