STEA ネットの世界がリアルに体験できる・・・! そう知って私が真っ先に行きたいと思ったのはお気に入りの世界(サイト)だった。 私もネットをやっていなかった訳ではない。 さすがに彼の主人ほど熱狂的にはやっていなかったけれど。 私は別に特定の世界に固定して居続けた訳でも無く、 フラフラと流れるようにネットサーフィンをしていたのだ。 多分他の多くの人達も同じようなものなのではないだろうか。 そんな漂流時代に見つけた、お気に入りの世界があった。 その世界の創生者は多趣味な人で、そこには煩雑に様々なジャンルが転がっていた。 でも企画が出来ては消えて出来ては消えて・・・という辺りを見ると、 単に飽きやすい人なのかもしれない。 そういえば最近はSTEAと旅に出る事が多くて全然ネットをしていないなぁ・・・。 あの世界が物質化されて直に体験できるとしたら・・・どうなるのだろう。 私には全くイメージが湧かなかった。 けれど、スゴク楽しみな気がした。 ともかく、私は彼にその世界に行きたいんだと伝え、暗号(URL)を教えた。 すると彼は一瞬驚いて、私に暗号内容を聞き返してきた。 どうしたのだろう。 行った事のある場所なのかと思って私がもう一度暗号を伝えると、 何故か彼は少し黙った後に“行かない方が良いんじゃないか”と言ってきた。 「何で?何で貴方にそんな事言われなきゃならないの?」 不可解な拒絶と、私のお気に入りの世界を否定された気がして、 やや怒気を含んで私は思わず彼にそう言った。 すると彼は私の気迫に負けたのか、今度は押し黙って静かに暗号を入力した。 行った、その先・・・。 ・・・そこは見渡す限り灰の世界であった。 昔の面影など欠片も無い。そこには本当に何も無かった。 そうだ。ネットの世界はすぐに消えてしまうもの・・・。 そして一度消えてしまったら、それからを知る術など無いのだ。 呆然としている私に、彼は独り言の様に呟いた。 「ここ、半年前くらいになって閉鎖されたんだよ。 創世者の主人が、受験に本気に取り組むって言ってさ。 本当かどうか、疑わしいけれどね」 そうか。そういえばここの創世者の主人はそんな歳だった。 妙に幼く思えたり、かと思えばふと哲学的な事を呟いていたり・・・ でも、でも、もう受験は終わっているハズ。 なのに、この世界が灰のままだと言う事は・・・ カッコー♪ 私がそんな悪い想像に駆られていた時、彼の右腕から軽快な音が流れた。 彼はバツが悪そうにノロノロと何やらピポパとやっていると、 ふぅっ、と小さく溜め息を吐いて呟いた。 ■「徴集されちまった・・・」 |