STEA


「ねぇ、貴方に任せるから何処かに連れて行ってよ!」

そう私が言うと、彼は少し首を傾げて考え込む。

「じゃあ、ちょっとネットサーフィンを続けさせてもらうよ」

少し考え込んだ後にそう言った彼は、頭のゴーグルを目に当てる。
そして両手を前に突き出して、立ったままキーボードを打つ様にカタカタと指を器用に動かし始めた。
それは輝く扉が現れる前の不可解な行動であり、その意味もネットの世界に居ると解れば納得できる行動だった。
要するに、今彼は次に訪れる世界(サイト)の暗号(URL)を書いているのだ。

案の定目の前に輝く扉が現れ、彼(私)はその扉を開ける。
すると視界に眩いばかりの光が溢れ、同時に吸い込まれるような感覚に囚われ・・・
気が付くと新しい世界に立っていた。

その後はもう驚きの連続だった。
私もネットをやった事はあるのだが、この世界はあまりにも素晴らし過ぎた。

「小説」はまるで映画の様に目の前でストーリーが進むし、
「3DCG」は立体となって陳列しているし(中には動く物もあった!)、
「音楽」はライブ会場に居るかの様な錯覚を起こしてくれる程生音だったし・・・!

もう私は本当に興奮して、この世界に没頭していた。
数々のクリエイター達の作品は本当に個性的で、魅力的だった。
勿論、血の通って無い様な表情の無い作品も中にはあったのだけど、
ネットの世界にある作品というのはサイト主が本当に納得して作った物が多いらしく、
結果、素敵な作品や個性的で目を引く作品が多かった。

この感動をそのまま彼に伝えると、彼は少し皮肉っぽく笑って答えた。

「確かに、その通り。この世界では何でもリアルなんだ。
 ただし、僕らは本体(彼は主人と言ったけど)に伝達するだけが役目なんだ。
 僕達はシナプスみたいなもんさ。情報を伝達するだけで、実感は無いんだ。
 それに、君が思っている程リアルって言うのは良い事ばかりじゃないよ」

その言葉は何だか私には少し悲しくて、そして最後の言葉はなんだか不吉だった。

彼は少し何かを迷っていた様だけれど、唐突に右腕の「ICU」を操作しだした。
慣れた手つきでそれを操り、何やら仲間と連絡を取り合っていたかと思ったら・・・
彼は、まるで独白するかのようにこう呟いた。



「戦場に、行くか・・・」