はてさて、一体どうしてこんな事になったのか。
笑い声とアニソン(アニメソング)が流れるカラオケBOXの中で、
ボーッと歌詞を映す画面に映し出される映像を眺めていた。
机を挟んで対面に、僕と同じく表情の固まっている女性が居る。
やれやれ。きっと彼女も想像だにしない事だったに違いない。
第一章 君と僕が出会った日
状況を整理しよう。
僕は今ネット友達で集まって、飲んだり食ったり歌ったりと言った、
いわゆるオフ会というものに参加している。
正直、僕はそういった集まりには興味が無いのだけれど、
今回はそうも言ってられなかった。
その理由が、今僕の目の前に座っている女性――――。
その時、ふと彼女と目が合い、お互い瞬時に目を逸らす。
やれやれ。さっきから何回こんな事を続けているのか。
言っておくが、目が合って恥かしいから目を逸らしている訳ではない。
それは向こうも同じである――――……多分。
こうしなければならないという事には、それなりの理由があるという事だ。
先ほど述べた通り、彼女に会う為に僕はオフ会に参加した。
それはいわゆる恋慕の情があったからであろう。
難しい言葉+推定なのは照れ隠しである。気にするな。
自分でさえネット上の人間に恋をするという事実に直面するなんて、
これっぽっちも思ってもみなかったのだ。
だから、それを認めるまでには時間が結構かかったのだ。
自分のような朴念仁がねぇ……。
何処か他人事のように僕は嘆息する。
さて、カラオケも終わり飲みに移動しようという時。
唐突に彼女が僕に話し掛けてきた。
「ええと、かず……Blade君は飲みは参加しないんだよね?」
Blade、というのは僕のHNである。
にっこり微笑む彼女だが、その言葉には何か強い意志が感じられた。
僕は内心動揺しつつも、正直に彼女に答える。
「いや、参加するつもりだけど。何で?」
するとその言葉に彼女は顔を真っ赤にさせて反論する。
「貴方、未成年でしょ!」
ひくっ。
彼女の勢いに完全に押され、僕は思わず一歩後ずさる。
やれやれ。
CHATしてた時には俺がカクテル作ろうと、何も言われなかったのになぁ…。
僕は鼻の頭をポリポリ掻き、肩をすくめて見せる。
「解ったよ。帰ります」
そう言うと幹事役の友達の所に行き、帰る旨を伝える。
言い終えると、彼女はすいっと幹事役の人間に耳打ちする。
どうやら彼女も帰るらしい。
僕等が帰るという事で、皆から結構ブーイングが出たけれど、
それよりも冷やかす人間のが多かった。
全く、放っとけっての。
ここらへん、僕の友達には子供が多くて困ったもんだ…。
帰る場所も一緒だし、乗る電車も一緒。
幹事役の友達が「夜遅いし危ないから」という理由で、
気を利かせてくれて一緒に帰る事になった為もあるだろう。
皆が飲み屋に移動し始め、その背中に手を振り終わり。
僕はその手を腰にあて、大きくフーッと溜め息を吐いた。
そして隣で肩を小さく落としている彼女に声をかける。
「さて……帰りますか、典子先生」
そう。
彼女――――は、僕が通う高校の教師で。
しかも都合の悪い事に、僕の所属する陸上部の顧問だったりした。
はぁ。
運命の輪も、ここまで噛み合わなくても……ねぇ?
それが、彼女と僕が初めて出会った日。
そして、全てが動き出した日……だった訳だ。
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