始まりは、ほんの些細な事だった。
彼女はフラリとネットサーフィンをしていた時、よく行くお気に入りのサイトのBBSを覗き、
たまたま僕の(偏った思想タップリの)レスを見て僕に対して少し興味を持ってくれたらしい。
そのサイトのオーナーと僕とは以前共通のサイトで知り合った仲であり、
僕はその人のサイトにちらちらと足を運んでいた。
現実世界と違い僕はそういったリンク(繋がり)を大切にした。
年齢が離れているだけで偏見を受ける現実とは違う。
教師に正論で反論したって「ガキの癖に」としか思われない。だがこの世界は違う。
少なくとも年齢を自分からばらさなければ問題は無い。
データ不足。
まぁそういった訳で僕とそのサイトのオーナーとはそれなりに仲良くなった。
「小説を書く」という共通の趣味があった事もあり、相互リンクも貼っている。
彼女はそのリンクから僕のHPに遊びにきた、とメールで教えてくれた。
彼女が僕にくれた初めてのメールは、今までもらったどのメールよりも素晴らしかった。
彼女の興奮が生で伝わってくるような、そんな文面だった。
それもそのはず、彼女は僕の小説を一気に読み進め、
その直後にメールを書いて送ってくれたのである。
読んだ、その勢いそのままに。
そしてそれは当然の事ながら書き手にとって一番嬉しい事であった。
僕は自分の書いている小説に何らかのメッセージ性を込めている。
そして読み手に考えて欲しい事を含ませている。
その上で読み手が彩れる、空想できる部分を大切に残している。
だから僕は読んでくれた人の感想を一番喜ぶ。
それは自分の小説、自分の力量を評価してくれるからではない。
自分の小説を通して彼等が見てきた世界、彼等の視点から見た僕の(或いは全く彼等の)世界。
それらを感じ、語ってもらうのが何よりも好きなのだ。
それからちょくちょく彼女とはメールでやりとりをするようになった。
とにかく彼女はマメであった。驚くほどマメであった。
僕がお礼&各文章にレスをしたメールを送ると、次の日にはもう返事が届いていた。
兎に角彼女の好奇心は凄かった。
質問責めされている僕の方が照れるくらいに。
序章 始まりはほんの些細な…
彼女と僕との間には、奇妙な運命の歯車があった。
運命だ、なんて言うとイタイ人呼ばわりされるかもしれないが、
僕等の間に起こる偶然は、偶然という言葉だけでは処理しきれない程何回も起き、
且つドラマティックに存在した。
始まりの偶然は、こうだ。
まず、それは彼女が僕の小説を読んでいる途中から始まった。
彼女が読み始めた時。僕の小説はまだ未完であった。
それが、彼女が丁度今までUPされていた最後の章を読み終わった時、
最後の最終章がUPされたというのである。
勿論故意でできるような事ではないし、当然僕自身とても驚いた事だ。
そこでまず、僕等の運命の歯車は噛み合った。
それからは雪崩れ式に、というのも可笑しいがボコボコボコボコ偶然が溢れ、零れてきた。
同じ(マイナーな)音楽が好き。過去に同じ痛い経験を持っている。
彼女がネットで探し当てた一番のお気に入りのオリジナル音楽を作ったのが、
僕とネット友達で合作したMIDI(曲)である事。
まぁ兎に角様々な偶然がメールをやり取りする内に起き、
僕等の歯車はどんどん加速していった、という訳だ。
まぁ、そんなこんなですっかりメル友(まさか僕が、だけれど)になった彼女であるが、
僕が彼女に好意を抱いていたのは言うまでもない。
そして、それが日増しに強くなっていったのも若い16歳の事だ。仕方が無い事だろう。
彼女も、僕に好意を抱いてくれていたと思う。
でもそれが恋愛対象であるかどうかは定かでは無かった。
データ不足。
やれやれ。
考えれば、お互い本名も年齢も性別も解ってなかった。
住所は既に二人とも同じ都市に居る事が発覚していた。
二人の共通の知人のHPでチャットをしている際に丁度地震があったからである。
話の流れはどうしても「揺れた?」「どこで?」と、現住所に流れやすい。
さて。
悩める若き16歳の次なる行動は、如何にすべきか。
・・・言っている自分でも馬鹿らしくなってくるが、
僕は他のネット友達とのOFF会に託けて彼女をカラオケに誘ってみた。
彼女は声フェチであると以前から言っており、僕の声にも興味を持っていた。
それを利用し二人きりを避けて安心させる・・・とは言え、いささか直球過ぎただろうか。
何しろこんな事は初めてだったので(こんな事を言うと神谷に笑われるだろうけど)、
僕は僕なりに考え、そして致命的にテンパっていた。
前にも述べたように。
始まりはほんの些細な事だった。
それが、運命という奔流に飲まれて何処かで大きなうねりに変わっていった。
そんな渦中の中に、僕と彼女がポツンと取り残されてしまったのだ。
この話は、そんな僕ら(複数形で終わると良いなぁ)の、話である。
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