例えばこんな妄想で
例えばこんな妄想で 君の笑顔を誘い出そう
例えばこんな妄想で 君の涙をすくい取ろう
例えば君が望むなら 僕はケダモノの嗅覚で君の居場所を探し出す 今日の帰り道を嗅ぎつける
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さも偶然を装ってその場所に立つ。初めての場所で
ストリートミュージシャン達ののスポットがわからない。
少し場違いだろうか。そんな設定を決め込んだ。
ギターを肩に掛けてみる。弦の感触を確かめながらチューニング。
大体いいようだ。それもその筈だ。もう何度もやっている。
でも1弦が少しフラット...かな。1弦と2弦のハーモニックス。
それに実音。妥協点を見つけだす。雑踏の中で弱気な音に神経を
集中する。コードを1つ2つ、ポロロン〜とやる。うん、いいだろう。
そしてひとつ、深いため息...。いつ始めよう。きっかけが掴めない。
右の肩のレーダーが君の気配を“今”感じ取った。ディレクターのキューが
響く。右前方60°...、55°...。
瞬間、ひらめき! イントロは省略。いきなり歌でいこう。
50°...、45°...!
標的確認! ロックオン!
オープニングはいつもこの曲、ゴキゲンなロケンロールナンバーだ。
(おい、そんなの作ってないぜ。//気にすんな、今度作っときゃいいことだ。)
「ファイヤー!!」と叫ぶかわりに歌い出すんだ。
...あれれー? 歌い出しはえーと...?何だっけ!?
くそっ、歌詞のかわりに「オーイェ〜イ」とかで、ごまかしておいた。
ミスをカバーして瞬時に粋な演出に変えてしまう辺り、我ながら憎いぜ。
予定変更、イントロは4小節、5小節目の頭から歌いきます。
ヘットセットマイクで秘密の場所と短い交信を交わした後
彼は歌い始めた。チューブアンプのナチュラルディストーションサウンド。
イケテるギターリフをバックに よく通るハイトーンボイスの誘惑。
《君がこの歌に足を止めたら、この勝負...、この勝負、俺の勝ちだ...。*1》
《君は確かに足を止める。俺の中の予言者が、今、耳元で教えてくれたぜ。》ごくありふれた午後の雑踏の中、彼の周囲、半径約5メートルの風だけが
モノトーンに染まった。コマ送りの都合のいい記憶の海に、安物のアコースティックギターの
音、そして時折裏返るダミ声だけが妙に生々しく浮かんでいた。
彼女は歩調を緩めもせず、冷たい視線さえ惜しいと言わんばかりに、その風を
軽やかに潜り抜ける。広がる二人の距離。もう声は届かない。ただ彼の狂おしい“情念”だけが
恥ずかしがりの午後の月に密かに反射した...ようにみえた。正確に言えば36歩と半分。彼の前から37歩目に当たる右足を地面に降ろさんとする
まさにその瞬間...。キラキラ*2が彼女を貫いたんだ。おひさまは瞬きした。えっ、何? 何か大切なことを思い出したんだけど...。
えっ、何んだったけ。どうしても思い出せない。
それにしても、あの歌は...。どこか懐かしい感じだった...。
それにしても、あの人は...。どこかの誰かによく似てたかな?あなたは私の作り上げた妄想だけど、私もあなたの幻想の産物です。
振り向いたって誰もいません。だからこの勝負はお預けです。
今、白黒の風があなたを追い越していきました。・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・
例えばそんな妄想で 君の笑顔を誘い出せたら
例えばそんな妄想で*1:inspired by mami
*2:inspired by hitomi natsu