2012



8







8/30



・腐敗臭


ゆっくりと進行していく崩壊が

遠く微かな

でも強く確かな薫りを醸し出していた

ココロはすでに原型を失ってしまって

嗅覚がじゅくじゅくとした茶褐色の求愛の

嗚咽のような

こみ上げてきた胃酸のような

あの味覚までも伴った臭気を

恥ずかし気もなくまき散らしていた


ふと腐っていく自分を見つめているこの視線を思う

一番最初にとろけた右の眼球は

一体ナニを見つめていたのか

一体ナニを探していたのか

一体ナニを

一体



解読された四進法の暗号の中の

もうひとつの暗号になら触れたかった

もうひとつの暗号にならなりたかった

わからないんじゃない

感じないだけだったんだ


8/29



静寂の音を聞きながら揺れる

とても遠い記憶と繋がる

時も空もない窒息したままの平安

大いなる愛の眠る

その小さな海の中の聖なる眠りの記憶


もうひとつの夜に浮かぶ

あれは多分 月光のささやきだろう

どうしても吐けない水にもがき

悶絶と痙攣の後に訪れた

暗くて静かで優しい絶望の揺らめく


世界はまだ寝言で愛を嘆き

魂の平穏は夜に下のもっと下の暗黒にしか

まだ見つかっていない

あぁ 潮の香りが恋しい


8/27


・禁欲する


8/26


メールをどうも


返信遅れて申し訳ない


昨晩遅くに端を発した

僕の劣情衝動放出願望活動は

本日の午後

(誰も悪くはないのですけれど)

ある種の気怠さとため息を残してしまうという

ありがちな不完全処理の形で

その処置を終了しております



あなたを根底から救える魔法を

僕が持ち合わせていないように

僕を 僕のこの汚れた魂を

根本から浄化できるような魔法を

あなたもまた持ち合わせていないでしょう


申し出 ありがとう

またいつか

魔法を夢見てしまえる夜にでも


PS.

ねえ 魔法を欲しがったのは

本当は

あなたの方じゃなかったんですか?



---



8/22


暴力的な言葉で


頭を引っ叩く

ドスンとボディーブロー

グサッと心臓を

チクリと眼球を

ヒヤッと頸動脈を

ちょこっとほっぺを


露骨な愛撫を

子宮を鷲掴みに

残酷なトドメを

無慈悲な真実を

濁らない純情を


音を伴ってしまった絵の具が

原稿用紙からはみ出して

その命の源流にまで辿り着いて

とっても単純な

あのたったひとつを暴いてから

空に帰れたらいい

空に帰れたらね



8/21



命は美しい交尾の結晶なのだ

それでも人は  恋を求める

解けてしまうと知りながら

自らに魔法をかけたりもする


だって

神様はいないし

奇跡なんて起きないし

でも

あからさまな朝の

露骨な素顔が

やっぱり心臓をくすぐるなら


それでも僕は恋を求める

それでも僕らは恋を求め続ける





8/17

劣情小曲集


洗い流した煩悩は

今頃 下水処理場への旅に揺れているだろう

何も産まない平和が

だけど

柔らかな恐怖となって

この首に絡み付いている

小腹を空かせた幸福論は

カロリーオフの陶酔で手を打とうとしているし

僕は見失った感傷の前で

うたた寝の小舟を揺らせているだけなのだ


平凡は財布に優しい

平凡は財布にも優しい


その甘い薫りに埋もれる夢も

何かに憑依されたようなあの

狂おしく溢れ出す 

コントロール不能な超越感も


今は 昔



夏は その終わりのサミシサを 味わうべきものなのだ


もっと灼かれたい肌が 太陽の匂いを忘れるまで


心音アルペジオ


月のない夜に沁みわたるように



8/14


心は動く 

だけど書き留められない 

暖機っていうのかな 

感覚を増幅したり 残響させたりする作業だったんだなってね

無意識が詩情に飢えていて 

誰かに投げつけたい衝動もあったってこと


手軽な冒険はだいたい有料で

しかもそのほとんどが少しさみしくて

わかっているのに止められない愚かさを

許して 笑って 蔑んでいる自分がいる



伝えたい人なんてもう 

もうどこにもいなくて 


恋をまた苦しむか 


日々のいろんな場所に潜む 

あの ふっと ため息が吹き溜まる場所につまずいて 

ヒンヤリと絶望するか 

だったりする

 


禁断と見つめ合って 勝ち続けられたためしがない


去年言われたキレイダを 夢に見ながら咲く花の 

詠み人知らずの花びらの ただ真っ直ぐな紅に刺される




8/6



十六夜の月に純情をまた汚した

言い訳する度に黄ばんでいく肌を

満面を一日過ぎた月だけが見つめていたんだ


君と粘膜

月と片恋

僕は月より素直な鏡になろうとして

また少し喋り過ぎてしまった


素直を感じること

心を縛らぬこと

残酷に燃え残るより

しっかりと壊れてしまえばいい


伝えることは 少しえぐることで

予想外の陰影の為に

暗鬱な絵の具だって用意しなけりゃならない


僕らの特別

残り香に付着した誰かの恋慕

平凡なスキしか残らないなら

口笛に言葉に出来ない愛してるを

乗せてしまえばいいだけさ


平凡を楽しめるのも

ある種の才能なんだ

平凡を楽しめるだけの

天才が魂には住んでいるのさ



8/X


・未完放置

使い捨ての永遠をひとつ

夏の中心に埋めようと思った

それで

夏の中心を探したんだけれど

恋の真ん中が

恋の終わった後でなければわからないように

あっ    夏の終わりが始まったんだという瞬間を

認めてしまった時のさみしさが怖くて

無意識がかみ殺してしまうから


使い捨ての永遠をひとつ


夏の中心に埋めようと思ったんだ


青春に閉じ込められた憧憬の身震いが


夏に含まれた狂気の震源なんだ










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