夜汽車

疲れた現実 無口な孤独

 秘やかなため息 うらぶれた虚像

  やつれた肉片を幾つも乗せて

 夜汽車は走る 淀んだ闇に

  疲れたのに冴えてしまった目を

   救いのない物語で覆い隠してみる

    聞き慣れない駅を

     幾つもやり過ごした

      身に覚えのない憎しみを

       さっきから何度も感じる

        目しか見せない視線の主と

         冷たい挨拶が交わされた

 思い出せない誰かに似た瞳を

  知らぬ間に自分も睨み返す

   誰だったのか気がついた時

    手遅れかも知れないと全てを悟った

                 瞬きの間に席を立つ幻は

 
   慌てて視線が追う
              醜く肥えた惨たらしい現実だった

 
    些細な放心とよくある落胆

  眠りたい心と乾いた眼球が

   ギクシャクと夜を見据えていた

     少なくとも二つの悲しみが

      この車両に同乗している

       終点の声にけだるい体で立ち上がると

        果たしてそれは忘れ物の念のみであった

 麻痺した空想 お気楽な孤独

  すえた薄ら笑い 粘ついた空気 

   見馴れたホームに降り立ったのは

    吸い殻と猫背な影

     戻る場所はあっても

      辿り着く術を知らない

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