星のきれいな夜

 自分がチッポケだと思えるとき、世界で一番ダメなヤツだと感じてしまうとき、思い出す星空があります。それは小さな頃の記憶。そして僕の大事な宝物...。
 僕は生まれつき目が悪かったんですよ。軸性近視っていうんでしょうか。眼球がちょっと縦長でどうやっても焦点があわないんです。おまけに強度の乱視も混じっていて最悪です。小学校3年までそれに気付かづにいました。だから近所の子供達が集まってやるソフトボールとかは、好きなんだけど、いつも外野のまた外の球拾い。球が飛んできても直ぐそばに来るまでわからないんです。打席に入れてもらっても打てる訳ありません。それはきっと僕がダメな子だからだ、なんて劣等感を当たり前に受け入れていました。
 3年生ではじめて視力検査を受けたんです。僕はビックリ。一番上の大きな印さえマトモにわかりません。クラスのみんなも驚き、そしてバカにしました。なんだ、ダメな子だけじゃなくて目も悪かったなんて...、最低です。でも平気でした。心の一部を不感症にしていれば平気なハズでした。そしてメガネです。クラスでメガネ君は最初でした。案の定、メガネザルと呼ばれます。感情を押し殺し、ボーっと過ごすこと。自然に身につけた悲しい逃避のテクニック。そして...、いつもメガネのズレを気にする神経質な子供の出来上がりです。悲しい感情を封印したので、悲しかった記憶は不思議とありません。そのかわり心が歪みました。
 それは確か近所の神社の秋祭りの夜だったと思います。メガネを気にしてはいても、いきなりクッキリと見え出す世界は驚きの連続でした。その夜も沢山の驚きでとても楽しくて幸せでした。お祭りも終わり、家へ帰ります。父と僕と母と3人、手を繋いで歩きます。家までは百メートルくらいでしょうか。子供の僕には随分長かった気がします。ヒンヤリして虫の音でも聞こえていたかもしれません。ふと見上げると空には星がイッパイ!僕は息をのみました。満天の星空なんて聞いたことはあっても眺めたのは、正真正銘その時がはじめてだったんです。なんて沢山のお星様!ホントに星ってこんなにもいっぱいあるんだ!あれが天の川?あれがオリオン座?ホントに数え切れないよ!スゲー!スゲーよ...。その時の感動を僕は言葉になんて出来ません。それほどの衝撃的で刺激的な出来事だったんです。
 はじめて見た星空の記憶をハッキリと持っている人が世界中にどれくらいいるでしょうか。どんなに悲しくても、星空を仰ぐたびに自惚れた微笑みを浮かべさせる記憶の中の光。誰も知らないけどオイラって凄い秘密を持ってるんだぜ、なんて...おかしな妄想。憂鬱を切り抜ける僕だけの呪文。そんな呪文をそれぞれに探してみてくださいね。

星のきれいな夜 願い事が唯一つ

何かいいことない? そんなため息にかき消されてしまった

かすれた純情 馬鹿げたひとりよがり

歪んだ願望 敗れた果てた夢

この胸のうずきさえ 今は少しうれしい

星のきれいな夜 忘れ物の僕が一人

流れ星さがして 誰かを捜して

 

 

 

素敵な夢を...。

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