金星からの帰還

 みなさんこんにちは。いかがお過ごしですか。僕はゴンタ3号。
まあ、元気でやっています。
 実はみなさんに今まで隠していた事があるんです。いつ公表しよ
うかと迷っているうちに今日になってしまいました。どうもすいま
せん。それでは発表します。僕、ゴンタ3号は火星人なのです。正
確に言うと火星人と地球人のハーフです。いや、もっと正確に言う
と地球人の肉体で魂だけのハーフです。これ以上の事は極秘事項な
ので言えませんが...。ですから注意はしているのですが、たまにヘ
ンテコリンな行動や言動をとってしまうことがあります。まあ、そ
んなところは普通の人にはただの変人と映ったかも知れません。そ
んな訳でこれからも、その様な変人ぶりが目に付くかも知れません
が、どうぞ大目に見てやってください。
 さて、カミングアウト記念に、この間、金星に行って来たお話で
もさせていただきます。


 明け方、地球に戻ってきました。みなさんお元気でしたか。金星
は2回目でしたがとても素敵なところでしたよ。気持ちよく用事を
済ますことが出来ました。
 帰る前の日、アンテナを思い切り伸ばして例のモノを受け取ろう
としました。弱々しいかすかな希望って奴がノイズに混じって1
つ、2つ...。
ノイズリダクションシステムを地球に忘れてきたので解読に苦労し
ました。もしかしたら気のせいかもしれないけれど、確かにそれを
感じ取りました。金星には欲しい物は何でもあります。土産屋さん
で買おうとしました。
「すいません。あれとあれと...そいつが3つに、こいつは2つ下さ
い。あの...いくらですか。」
土産屋の金色の店員さんは不思議そうな顔をして言いました。
「あの...失礼ですがお客様、ここの品物はお金はいらないのですが...、
ですので、その地球の汚れたお金はどうぞお納めください。」
土産屋の金さんは困ったようにさらに続けて言いました。
「お望みのモノなら何でもご用意できますが...、お一人様一点まで
となっておりまして...。あのー...。いかが致しましょうか。」
「おやおや、そいつは困った。さてさて、そこを何とかなりません
か。」
一応ダメモトで言ってみました。
「いやお客様、これは規則で決まっておりまして、私にはどうする
ことも出来ないのでございます。誠に申し訳ございません。」
困りました。思案しました。良い案が浮かびません。誰か一人分だ
けもらっていこうか。自分の分だけで後は知らないフリをしたもの
か。非常に困った顔をしていたのでしょう。金さんは奥から大きな
カゴを持ってきて言いました。
「お客様、こちらなら幾つでもお持ちになって結構でございます
が...。」
カゴの中にはプラスチックのようなもので出来た色メガネが入って
いました。レンズはセロファンのように見えましたが、言いようの
ない素敵な色でした。
「これは土産ではありません。何というかオマケのようなもので
す。」
「ウン、それはいい。頂きましょう。」
あまり深く考えもせず、色メガネをもらうことにしました。カバン
の中やポケットというポケットに入れられるだけ入れました。金さ
んは笑っていました。

 地球に戻る前に月に寄りました。月のホテルで一泊しました。地
球を眺めながらおいしいビールを飲みタバコを一服しました。ふと
思い出して、あの色メガネを一つ胸のポケットから出してみまし
た。試しにかけてみました。するとどうでしょう。
「ありゃありゃ、凄いぞ。こりゃこりゃ、たまげた。」
そのままでも充分きれいな青い惑星は、思わず声を出してしまうほ
どに輝いて見えました。
 不思議なことに地上の細かなところまで、まるで近くにあるよう
に見えました。自分の部屋を覗いてみました。窓から見える部屋の
隅にずーっと探していた大切なものが見えました。
 みんなの様子も眺めてみました。みんなもまた欲しがっていたも
のを身近に隠していました。頭に乗せて気が付かない人、内ポケッ
トにしまい込み忘れてしまっている人、中にはガムのように靴の裏
にくっつけている人もいました。これはいいぞと思いました。帰っ
たらこのメガネを急いでみんなに届けようと思いました。またビー
ルを飲みました。酔っぱらいました。

 そして今朝です。無事到着しました。一人用の宇宙船をいつもの
ように秘密の場所に隠しました。急いで家に帰りました。はやる気
持ちを抑えながらカバンを開けました。
「あれっ、あれれ?」
どこにもありません。タオルの下とかパジャマの中とか、思いつく
ところはみんな探しました。ポケットを探ってみました。中身をみ
んなぶちまけました。ハンカチ、財布、宇宙免許証...。そんなモノ
しか出てきませんでした。
...しばらくボーっとなりました。何が起こったのか理解できません
でした。欲張りすぎたのかな?地球の空気にとけてしまったのか
な?理由は...この際どうでもいいように思えてきました。少し落ち
込みました。言い訳も考えました。なにも思いつきませんでした。
でも...。
「そうか!」
色メガネは無くてもいいんです。そんなメガネなんかない方がいい
んです。

大切なモノは見えなくていい
欲しがっているモノはすぐ近くにある

そんな簡単な事だったんですね。

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