カサブタ

 心がまだ赤子の肌のように柔らかかった頃、小さな傷がついてしまった。抵抗力が少し弱くて傷口が膿んでしまった。見えにくい傷だから誰にも気づかれることもなく、黒くいびつなカサブタが出来てしまった。その時から心の大事な一部分の成長が止まってしまった。
 生命には代償作用がある。目が見えない人は音や匂いや触感に敏感になる。右手の自由を失ったピアニストは努力によって左手だけでショパンを弾きこなすようになる。心には...?壊れた心はどうなるの?
何となく思う。心にも代償作用があるんだろうってね。成長を止めた心を補う心の別な部分。不格好に肥大するけど、それは自然な生命力が持つバランス。だからね、僕らは少しだけ感じやすいんだ。胸の中に大きな隙間が出来ないように、痛々しくも力以上に膨らむ心。そして一生懸命、張り切っている心。でも完全に隙間は埋まらない。ガスやおぞましい液体が隙間に溜まってしまうこともある。そして元気な心までも萎びさせてしまう。どうしたらいいかって?それは簡単だよ。たまにガスや液体を吐き出してやればいい。最初は怖いけど、馴れてしまえば案外平気だよ。ゲップは出しちゃえば、ゲロなら吐いちゃえば楽になる。我慢は禁物だね。
 そして思う。心のある部分を失ったコンプレックスは時にもの凄いパワーをも持つんだとね。なにも悲しむことはないんだ。それはある意味、財産でもあるんだよ。
 心に何かを感じたら、心がきしむ音を聞いたら、それは何かの前兆なんだ。そして...、もしかしたらそれは...、もうダメだと思っていたカサブタの下の疼きかもしれない。生命には、おもいもしない自然治癒力が隠れていることがある...もんだよね。

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