星に隠れて

 僕の心が火星人とのハーフだっていう話はこの間お話ししましたよね。そう、実はね、また旅に出ていたんですよ。地球に残しておいたのは遠隔操作ゴンタ3号です。どうですか?シッカリ動作していましたか?え!?本体の方はって?ちゃんとした任務は果たしていますよ。例のごとく極秘ですがね。遊びで行っているんじゃありませんので、あしからず...。今日はその帰りのお話でもどうですかね。

 地球に帰るのはいつも苦労するんですよ。全く地球人ときたら心の進歩は全然なのに、中途半端に科学技術だけ進んでますからね。見つけられでもしたら本部から大目玉を食らってしまいます。そうなんで今回は流れ星に隠れて帰還することにしまいた。我ながらこれは良いアイディアです。そして...、途中で懐かしい出会いもありましたしね...。

「オイ、そこの君。君はゴンタ3号君じゃないか。」
一人乗りの宇宙船を流れ星の速度に合わせるのに苦労していると、ふとアンテナから懐かしい声が響いて来ました。
「火星一番の落ちこぼれのゴンタ3号。シッカリ任務は果たしておるかね。」
全く大きなお世話です。でも、この聞き覚えのあるだみ声、それに僕の恥ずかしい過去を知っている数少ない人...。
「えッ...!?ダミーゴ中佐?...で・す・か?もとい、いらっしゃりますか?」
「さよう、ダミーゴだ。よく覚えておったな。あっはっはっは...。」
「しかし、君。今は大佐と呼んでくれたまえ。ワシも多少は出世をしたのじゃでな。」
「たっ、大佐。でも大佐がなぜ....?まさか...。」
「待ちたまえ、君と同じにしてもらっては困るぞ。ワシは、ワシらは志願して来たのじゃ。君のように左遷されたのではナイぞ。」
「・・・。」
「ああ、そうそう...、大佐というのもなんじゃな...、実はワシも銀河防衛隊を退役してな。まあ話せば長くなるがのう...。」
 ちょっと動揺しながらも僕に理解できたことは、こんなことです。
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 ダミーゴ大佐は銀河防衛隊を退役した後、悠々自適な余生を送るはずでした。実は僕ら火星人はかなり長生きなのです。だから少なく見積もっても、あと何百年は優雅に暮らせたのですが...。昨今の地球の状態は火星でも話題になっていたらしく、ダミーゴ大佐も心を痛めていらしたらしいのです。(それは僕の仕事がうまくいっていないせいなのですがね。)ある時退役防衛隊員を対象にした地球救援ボランティアの募集があったらしいのですよ。このボランティアというのがくせ者で...、命を張ったボランティアだったのです。僕のような出向火星人と違ってボランティアとして地球に行くということは、地球に骨を埋めることを意味しています。退役後の保証されて優雅に暮らせる生活を捨て、余命を削ってまでのボランティア...。僕の仕事がうまくいっていれさえすれば...。申し訳なさに僕はしばし黙り込んでしまいました。ひとしきり事情を話し終えたダミーゴ大佐は晴れやかなだみ声で言いました。
「ゴンタ3号君、やはり地球は綺麗じゃな。噂に聞いた以上じゃ。」
「え、ええ...まあ...。でも大佐、もう火星には戻れないんですよね?いいんですか?」
「なにを言っておるゴンタ3号君、こんな美しい惑星は銀河中探してもそうは見つからんぞ。ワシは本望じゃよ...。ワシには子供はない。妻は若い頃死に別れた。ワシがどれくらい無意味に長生きしたところで、どうなるわけでもない。この命は他人にとってはほとんど無意味なんじゃ。そんな真実は誰も言わんがな。真実は...時に冷淡なものじゃ。今、こんなワシにも出来ることがある。この美しい惑星の人々の心を蘇らせること...。そんな素敵な任務に命を懸けることはとても幸せなことじゃよ、なあゴンタ3号君。」
「はっ、ハイ、大佐!」
「もう大佐はナシ,でいかんか?今からワシらは同志じゃよ、なあ。」
「ハイ、大佐。」
「言ってるそばから...、バカモン!ガハハハッ。」
「すいません、た...、イヤ、ダミーゴさん。」
「もう時間のようじゃ。ゴンタ3号君、ワシの体は今から燃え尽きるが...」
「えっ!?」
見るとダミーゴさんは必要最小限の生命維持装置だけ装備した宇宙服で僕の宇宙船の傍を飛んでいました。
「...ワシは死ぬのではないぞ。ワシは地球人の心に入るのじゃ。そして人間として生き、人間として死ぬのじゃ。ワシの知識や経験は燃えて消える。じゃがワシの心は...、ワシの魂は純度を増して残る。そして人間になる。そして思うじゃろう...、生きるとはなんて素晴らしいことじゃろうとな。素晴らしく生きるとは素晴らしく死ぬということなのじゃ。ワシはワクワクしておるぞ。では取りあえずサラバじゃ。ガハハハっ...、ジーーー...。」
 無線は途切れました。気が付くと僕の宇宙船も大気圏突入の衝撃に激しく振動していました。必死で舵を握ります。すると僕のオンボロ宇宙船を追い越す火の玉が1つ2つ...。いや、アッチにもコッチにも沢山です。僕は一瞬で悟りました。ダミーゴさんだけじゃないんです。他にも沢山の同志が今、この星にやって来ているんです。たくさんの心が地球の空に降っているんです。流れ星はみんなの心だったんです。

 流れ星を見つけたら、なんか得した気分になりますよね。もしかしたらそれは、素敵な誰かの魂があなたの心と融合したからかもしれませんよ。どうですか?えっ、素敵に生きたいんですか?じゃ間違いありませんね。どうすればいいかですって?そんなの、人に聞いてちゃダメですよ。まあ、説明するんじゃなくて、みんなにわかってもらうことが僕の任務なんですが...。おっと、これは内緒ですよ。この任務は結構大変なんですよ。それではまた...。

 

 

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