泣いた赤鬼

 おとぎ話が好きだった。眠る前に聞かせてもらうのが好きだった。おとぎ話の最後はいつもハッピーエンドだった。ずっとそうだと信じていた。そのお話を知るまでは...。

 それは小学校の低学年だったと思う。教科書に載っていたのかもしれない。たしか学校で読んだ気がする。とってもとてもショックだった。物語の終わりがハッピーエンドだけじゃないことをはじめて知った。そして怖くなった。大人になるということは、そんな悲しい話を沢山知ることじゃないかって思って怖くなった。他の人はどう思ったか知らない。だけど僕は引きずった。ずっとずっと引きずった。物語の続きが知りたくて、でも想像することも創造することも出来ずにいた。泣いた赤鬼はその後どうなったの?去った青鬼はどうしてるの?世の中は実は悲しいことばかりなの?

 なぜ引きずったのか、今なら少しわかる。なぜそんなに執着したか、今だからわかる。子供の僕にはもっと前から得体の知れない悲しみが住み着いていたからだって。記憶に残る前の感覚。心の刷り込まれた淋しさ。記憶にないからどうしょうもなく、消し去る術さえ思いつかない。それとは一生付き合わなくてはならないんだろうと思う。みんなはどうなんだろう。僕だけ変なのかな?

 その悲しみとさよならしたら僕は僕で無くなってしまいそうだ。その感覚があるからこそ僕は僕であるような気さえするんだ。

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