FinalFantasy XI - Another Story
背中

とうとう、この日がやってきた。
今僕は獣人ヤグ―ド族の拠点地があるギデアスという所の、
BurningCircleという魔方陣前に立っている。
ここに「オーブ」という魔物が封印されているアイテムを置く事で、
古代の魔物が封印から解き放たれる。
何故、わざわざ魔物を封印から解くのか?
それは、その魔物が守る宝箱に秘宝が眠っているかもしれないからだ。
我々冒険者は、その秘宝目当てに度々この地に訪れ、
命がけのトレジャーハントをするという訳だ。

足が、震えている。
恐怖からじゃない。
湧き上がる興奮を抑えられないのだ。

先日、僕はやっと赤魔導師が一人前になるとされるラインを越えた。
魔導師の魔力を補助充填させる高位補助魔法リフレシュを覚えたのだ。
自らの生命力を魔力へと変換させる赤魔導師特有の技術、コンバートも覚えた。
資金繰りにとてもとても苦労したが、装備も何とか整えた。

これで、あの人と条件は一緒だ。

実はこのオーブを利用した戦い、あるルールが存在する。
それは封印を解いた罰なのか戒めなのか呪いなのか、
封印を解いた人間と、行動を共にする仲間達(通称PT)全ての能力が、
ある一定の程度に引き下げられるのだ。
今まで習得した技術も一定の技術までしか使えなくなったりする。
このオーブが出回った時はこのルールがあまり知れ渡ってなかったので、
何度も全滅するPTが多かったと同じギルドに属す詩人さんは笑っていた。

しかしそんな初期の時期から月日は結構経ち、傾向と対策は十分ある。
今、これから僕はその封印されている魔物と戦う訳なんだけど、
PTメンバーの中には何度も戦った事がある人も居るくらいだ。

「じゃあ、プロテス(高位防御魔法)全員にかけ終わったら突入ね」

不意に、よく通る澄んだ声がそう告げた。
僕はハッと我に返り、声のした方向に向き直って頷いた。
彼はフッと笑って僕の肩を手でポンポン、と叩く。

「そう固くならないで。
 大丈夫、全滅したとしたらそれはこのキノコのせいだから」

そう後ろでバラードを歌ってるキノコ帽子の詩人さんにニヤッとしてみせる。

「あぁはいはい、そうですね俺のせいですね。
 ムキープレッシャーかけるなっつの」

そんな二人のかけあいに僕は思わず吹き出し、
自分の体から適度に力が抜けるのが解る。

「大丈夫です、いけます!」

力強くそう言って彼に笑ってみせる。

「OK、じゃあ行こう」

彼はタルタル族の黒魔導師さんにそう告げる。
その言葉を合図に、皆の顔が引き締まる。戦場に赴く戦士達の顔だ。
そんな彼らの中心にりっくりっくと歩き、
魔方陣の中心にオーブをそっと置く黒魔導師さん。

その瞬間、皆の体を光が淡く包み込み、フッと意識が途切れる。

僕を気使ってくれた彼は、僕が所属するギルドのリーダー。
通称「首領」と呼ばれている彼は、皆の悩みを良く聞き・よく励ましてくれる、いい人だ。
ちょっと厳しい所があるけれど、それ以上に自分に厳しい人。
そんな彼の職業は赤魔導師。
僕の、先輩にあたる。
僕は彼の背中を追い続け、ここまで走ってきた。
でも、この条件なら。僕と彼の能力は一緒。
僕はやっとあの背中に追いつけ・・・

気がつくと、僕は別の場所にテレポートされていた。
皆はもう走りだしている。僕も慌てて遅れないようについていく。
目前には黒いマンドラゴラとそれを囲むように立つ6〜8匹の白いマンドラゴラ。

「君は、あんまり前にこないようにね!」

彼は僕にそう注意を促す。
僕は少しムッとした。僕だって何も調べないでここに来た訳じゃない!

「ターゲット確認。いつでもいける」

「同じくターゲット補足。いけます!」

前衛の侍さんと狩人さんが口々にそう報告する。

「じゃあ行くよ!印サイレスッ!」

特別な印を施してから黒マンドラに封魔魔法を唱える彼。
それを合図に目前の魔物達が一斉に彼に襲いかかる!
熾烈な20分間が、始まった。

予めストンスキン(耐打撃無効魔法)とブリンク(分身魔法)を唱えおり、
彼は魔物達の一斉攻撃の第一陣を無事に凌ぐ。
そこにタイミング良く詩人さんの魔物達のララバイ(範囲睡眠効果の歌)が入り、
白マンドラの殆どが眠った。
黒マンドラはさすがに彼らのボスだけあって眠らない。
その為黒マンドラは速攻で倒すのが必須条件となっている。
そこで侍さんの明鏡止水が発動!必殺技(通称WS)の三連続の始まりだ!
・・・と、誰もが思ったその時。
黒マンドラのフラッド(水の超高位古代魔法)が侍さんにクリーンヒット!
バウォタラ(耐水魔法)がかかっていたのかいなかったのか?
とにかく黒マンドラの一番警戒すべきであった古代魔法が直撃し、
あまりのダメージにそのまま意識を失う侍さん。

この戦いは自分達の能力を一定に下げられてしまう事もあり、常にギリギリの戦いになる。
その為に、PTメンバー1人の死は全滅に直結する可能性が高い。
PTメンバーの顔に不安と焦燥の色がありあり浮かぶ。
(ダメなのか・・・!?)
そう誰もが思いかけた時。

「侍さん!奥で休んでて!」

いつもの、あの声。澄んでよく通るあの声だ。
見ると侍さんはもう気がついていて、足は覚束ないものの自分の足で歩けるようだった。
侍さんが倒れた瞬間、彼がすぐさまレイズ(蘇生魔法)を唱えていたのだと解った。

「大丈夫!キノコ詩人が完璧に眠らせてれば崩れないよ!」

そう笑って皆を励ます彼。

「ムキーッ!だからそうやって人にプレッシャーかけるんじゃないと
 何度言えばじょふぁsぢfじゃおいdfじゃおしdjふぁ」

憤慨してそう言葉にならない言葉で言い返す詩人さんの顔にも笑顔が戻っている。
そうだ。我々は後衛4人というちょっと特殊だけど安定性があるPT。
それに赤魔導師が二人もいる。赤魔導師にはコンバートがある。
つまり、皆を回復する魔法力は魔導師4人分ある!全然いける!

その後黒マンドラを危なげなく倒し、途中一回くらい詩人さんが歌い漏らしたのか
ララバイがレジられた(効かなかった)のか解らないが瀕死になってたけれど、
MPには何の不安もない我々の前に一匹、また一匹と白マンドラが倒されていく。
途中完全回復した侍さんの参加もあり敵を掃討していくスピードも上がり、残り数匹となった。

「君も攻撃して良いよ。首領もさ」

赤魔導師は直接攻撃もそれなりに得意だからだろう。皆そう言ってくれた。
彼はそれでも魔力管理の為にヒーリング(瞑想して魔力回復に努める行為)をしていた。
そんな彼をさしおいて殴りになんか行けない。

「よし、じゃあ俺が殴っちゃおうかなっ」

そう言って詩人さんが殴りだした。文字通り素手で。

「・・・武器、装備し忘れてた・・・」

今更詩人さんが思い出したかのようにそう気まずそうに引きつり笑顔でそう言った。
おもむろに彼は立ち上がり、笑顔で白マンドラを切りだした。
僕も笑顔で一緒に白マンドラを切りだした。
キノコ詩人の代わりに切り刻まれた白マンドラがちょっと可哀想だった。
そんなこんなで無事魔物を倒し、黒魔導師さんは宝箱を開けられる事ができた。
秘宝と呼べるようなものは無かったみたいでショックを受けていたようだけど、
僕は始めてこの戦い、通称BC戦に参加できて嬉しかった。
それ以上に何か晴れ晴れとした思いが強かった。
同じ条件下なら対等になれるかと思ったんだけどな。

追いついたと思った背中はますます遠くに大きく見えた。
でもだからといってショックはない。
何故かって?

目標は大きい方が、やり甲斐があるってもんだろう?