FinalFantasy XI Another Story
港にて

丁度飛空挺が出てしまった所のようだった。
蒼空に消える小さな飛空挺を見上げ僕は小さく舌打ちすると、
苛立ち紛れに傍にある小石を海に蹴り入れる。
すると、そんな子供っぽい僕の仕草が可笑しかったのか、
「クス」という笑い声が横から聞こえてきた。
アツくなって気がつかなかった。
僕のすぐ横に、白銀の鎧に身を包んだ女性冒険者が立っていたのだ。
僕は少しバツが悪くも、頭を掻きつつ横に並んで海を眺める。
横目でチラチラと彼女を見るが、彼女の視線と姿勢は変わらない。

「こんな風にゆっくりと水平線を眺めているのも悪くないもんだね」

僕はそう、潮風に長い栗色の髪を棚引かせる彼女に声をかけてみた。

「そうね。私達の日常はあまりにも血生臭いから」

寂しそうにそう微笑んむと、彼女はなびく髪を手で静かにすく。

彼女が身を包んでいる白銀のその鎧には
一体どれほどの血が染み付いているのだろうか。
彼女のその小さな手は
一体どれほどの血を流してきたのだろうか。

僕は何も言えずじっと揺れ動く波を見つめていた。
まるで泡沫のように生まれては消えていく獣人と人間達の生命。
少しでも気を抜けば、自分はおろか仲間の命すら脅かす死戦を繰り返す日々。

この海を見つめていると
僕はそんな日々を少しだけ忘れられるような気がした。
「実はね。今まで一緒に戦ってきた戦友が、半年前居なくなったんだ」

彼女は突然、そう呟いた。
僕は黙って海を見ている。

「彼は仲間が傷つくのがとても嫌な人でね。
 ちょっと危険な時には何時も強力な回復魔法唱えてくれて。
 全滅しそうな時も、何時も惜しみなく自分を犠牲にする人だった」

彼女はそこで言葉を切る。
僕は相変わらず何も言わない。

「でもやっぱりそういう人って疎ましがられるでしょ?
 生き残ってこそが云々、っていう世界だしね。
 皆そうやって彼を説得した。私も説得した。
 でも彼にはどうしても受け入れられなかったみたい」

彼女は目を細めて言葉を捜している。
カモメは今日も賑やかに鳴いている。

「それでもなんとかやってきたんだ。
 私も今の職業に転職して、彼の負担を減らそうとしたし。
 でもそれが彼の負担になっちゃたのかな。
 半年前、彼は誰にも行き先を言わず旅に出てしまった。
 私はその直前に、会えたんだけどね・・・。
 これ、もらって欲しいってさ。馬鹿よね。私が着れる訳ないじゃない」

 そう言って彼女が見せてくれた服は、白地に赤い線の走るローブ。
 確かに、彼女が着れるようなサイズではなかった。

 「今日ちょっとその事思い出してね。
 気が付いたら彼の故郷に居たという訳。
 馬鹿みたいでしょ?・・・会える訳ないのにね」

彼女は笑って両腕を上げ、ゆっくりと体を伸ばす。
僕は何も言わない。何も言えない。

やがて静かな水面に荒飛沫が飛ぶ。飛空挺が来たのだ。
僕はゆっくりとそれに乗り込む。彼女は動かない。
沈黙の時間が流れる。彼女は何時までそこにいるのだろうか。
何時からそこにいたのか。何時までそこにいなければいけないのか。

そんな事を考えていたら、僕の口から勝手に言葉が飛び出していた。

「彼、別に幸せじゃなかった訳でもないと思いますよ」

飛空挺はそこで動き出した。
彼女は何か聞きたいような顔をしていた。
僕も何かを伝えたかった。


僕はある酒場で、初心者装備に身を包んだガルカと話をする機会があった。
彼は自分の死期を悟っていて、これから転生の旅にでる所らしい。
興味深い事に彼はガルカでありながら白魔導師を極めた身であったようだ。
しかしやはり魔力の少ないガルカ白魔導師への風当たりは強く、
回復過剰な彼の思想は多くの冒険者と食い違いを見せた。

それでも彼が頑張れたのは、一緒に戦った大事な戦友が居たからと言う。
自分の服は、その戦友に託してきたんだそうだ。
その戦友について話す時、彼は何だか楽しそうに話す。

「これが馬鹿なヤツでな。自分黒魔導師なのに俺が白でホラ無茶ばっかするだろ。
 そしたら何時の間にかナイトになっててさ。しかも経験も俺と同じかそれよりチト上なんだわ。
 やっぱナイトって事もあって誘われる機会もべらぼうに高くて、俺も強引に入れさせて。
 それからはもー俺がムチャする機会もないよーなタゲ固定っぷり。
 何かするにも「かばう」。これよ。そんなんやられたら俺もカッコつかねーっつの」

酒に酔ったのか彼はとても饒舌だった。

「あいつはヒュームで俺はガルカ。まーバスなんかじゃ犬猿の仲って感じだけどよ。
 俺はウィン出身だったからなあ。あんま固定観念なくて。すぐ仲良くなったよ。
 一緒に戦ってるとそんなん関係ねーしな。ほら、言うだろ?背中を許せる仲ってな。
 ・・・て俺がそんな前線出ちゃいけねーって?ガハハ、まぁそうなんだけどよっ」

その酔っ払いガルカは僕の背中をバンバンと叩く。痛い。さすがガルカ。

「まーそれでも・・・な。やっぱ悲しい顔は見たくねぇんよ。
 俺が転生するって知ったら絶対転生の旅についてくんぜ。
 そんなんありえねーべ。で、色々誤魔化して旅に出てきた訳。
 そいつに服とか一式渡してきてな。売れば高いだろ、多分」


彼女の言っていた「彼」がそのガルカだったかどうかは解らない。
ただ一つ言える事は、彼女が見せてくれた服は
彼女には到底着られない程の大きなローブだった、という事だ。

僕はウィンダス港で飛空挺を待つ間、海を眺めていると何時も
別れ際の彼女の寂しそうな表情と
彼女の瞳から零れた一粒の宝石の意味と
あの時全てを彼女に言うべきだったのではないかという事を
思い出し とても切なくなる



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