1.種別 無効審判事件
(昭和63年審判第5376号)
2. 商標「特許管理士」
(第26類:登録第765759号)
3.請求人 弁理士会東京都千代田区霞が関3丁目4番2号
代理人弁理士
高月 猛・松井 誠
4.被請求人 西東昌一 東京都新宿区百人町1丁目10番7号特許管理士会内
5.結論 「登録第765759号商標の登録を無効とする」
「審判費用は、被請求人の負担とする」
6.理由
1.本件商標
本件登録第765759号商標(以下、「本件商標」という。)は、別紙記載のとおり「特許管理士」の文字を横書きしており第26類「新聞、雑誌、その他の定期刊行物」を指定商品として、昭和41年9月16日登録出願、同42年12月1日登録査定、同月27日設定登録がなされ、その後、三回に亘り商標権存続期間の更新登録がなされたものである。
2.請求人の主張
講求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を次のように主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第17号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第7号(無効理由第1点)@弁理士法第1条は弁理士の業務、同法第22条ノ2は非弁理士の業務取扱等の禁止、同法第22条ノ3は非弁理士の辛苧使用の禁!」同法施行令第38条は非弁理士の業務禁止の書類について各々規定している。これらの規定の趣旨は、弁理士が特許、実用新案、意匠及び商標の出願から登録に至るまでの一切の事務、特許異議または登録異議の申立てに関する事務、審判または再審に関する事務、裁定に関する事務などを専業とし、非弁理士がこれら行為を利益を得る目的をもって業となし得ないとするものである。
A弁理士の専業とされる上述の事務は、一般には相当高度な知識、技能が要求される「特許管理」と概括的に表現できるか、少なくとも「特許管理」の重要な部分と関連すると理解されている(甲第1号証乃至甲第7号証)。
B「特許管理士」なる語は、特許管理業務に精通した者へ与えられる特別の資格、ひいては弁理士が專業とする業務とほぼ同じ内容の業務を行う者に与えられる特別の資格であるかのように一般に理解される。そうであれば、「特許管理士」と称する者に対し、錯誤から非弁行為を依頼する者が現れる可能性があろうし、また他人の錯誤に
乗じて非弁行為を行う「特許管理士」を称する者が現れるおそれがある。C諸求人の調査によれば、「許管理士」と称する者を弁理士と誤解し、「特許管理士」と称する者が非弁行為やその予備的行為をなした実例が生じている(甲第9号証乃至甲第14号証)。
D前記行為は、公共の秩序を乱すものであり、本件商標の登録を存続させることは、国による私製称号「特許管理士」の一種の承認とも受け取られ、「特許管理士」を称する者らによる非弁行為の温床を承認し、非弁行為の続出の助勢にもつながるものである。
E過去の審決例によれば「○○管理士」の語よりなる商標について登録審決がなされた例がある(甲第15号証)が、非弁行為に相当する違法行為を聞かない。しかし、商標法第4条第1頃第7号解釈の基準としては、○○士なる私製称号がもたらす違法をも登録の当否の基準として勘酌すべきである。
F「特許管理士」の名称は、弁理士法第22条ノ3に規定する弁理士と類似する名称と解すべきである(甲第16号証)。そして、○○士や○○師の称号は、特定の法令が定める有資格者にのみその使用が許可され、許可された者は法令の定める範囲の業務を専業とし、その業務に関し利益を得ることを目的としている。したがって、「特許管理士」の名称の使用は、弁理士法第22条ノ3の規定に該当する違法な行為である。
G特許法第8条は「特許管理人」について規定するが、本件商標は、この法律で一定の意味内容を与えられた「特許管理人」と同一視される語であり、私人がみだりに称号として使用することを許すべきでない。
H以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に規定する公序良俗を害するおそれがある商標に当たる。
(2)商標法第4条第1項第16号(無効理由第2点)本件商標がその指定商品の標題に使用されるならば、これに接する特許管理士以外の人々は、その内容にっいて、弁理士と同様な法律に基づく有資格者に関するか、弁理士の専業とされる業務に関係すると理解するから、内容の誤認を生ずるおそれがある商標として、本件商標は、商標法第4条第1項第16号にも該当する。
3.被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決を求め、その理由を次のように主張した。
(1)商標登録の無効の審判が講求できる旨の規定である商標法第46条の立法趣旨は、過誤による商標登録を存続させておくことは本来権利として存続することができないものに排他独占的な権利の行使を認める結果となるので妥当でないからという点にある。いいかえれば同法第15条で本来的に拒絶されるべきものが誤って商標登録を受けた場合である。無効理由に該当するかどうかの判断は、同法第46条第1項第4号に規定する後発的無効事由を除き、その商標登録時に無効理由があったかどうかによる。而して、講求人の提出する甲第3号証から甲第16号証までは、いずれも本件商標が登録されてからの資料であり、無効理由の証拠となるものではない。
(2)被講求人は、甲第1号証及び甲第2号証が本件商標登録前に発行された資料であることを認める。しかしながら、「特許管理」という語が、その字義通りの具体的意味内容をもって使われ、一般に理解されていたことの証明が、ただちに本件商標の登録を無効にするほどの理由になるとは思料し難い。ある術語が存在すれば、それに伴って一定の観念が生じるということは、ごく一般的に認められることであって、証拠により証明されるといった性質のものではない。問題となるのは、本件商標を構成する「特許管理士」という文字が、その名称において、他の法律によってその使用に一定の規制が設けられているような、正規の名称に該当するといった場合である。発明・考案のような技術的思想の創作と異なり、商標は、これを構成する文字、図形、記号などの選択的要素が強いものであり、字義通りの意味内容を有することによって無効理由が生ずるとすれば、本件商標と同じ第26類の「運搬管理士」、「海事管理士」、「外装管理士」のような○○管理土の文字よりなる多嫁の登録商標は存続し得ないものと思料する。而して、甲第1号証及び甲第2号証が「特許管理」なる語の意味内容を検討する上での参考資料にすぎず、「特許管理士」という名称が他の法律などに定められた正規の名称三三抵触することを証拠付ける根拠となるものでないことは明らかである。
4。当審の判断
先ず、無効理由第1点にっいて検討する。本件商標は、別紙記載のとおり「特許管理士」の文字を横書きしてなるものである。ところで、弁理士法は、弁理士の業務について「弁理士ハ特許、実用新案、意匠若ハ商標又ハ国際出願二関シ特許庁二対シ為スベキ事項及特許、実用新案、意匠又ハ商標二関スル異議申立又ハ鑑定二関シ通商産業大臣二対シ為スベキ事項ノ代理並二此等ノ事項二関スル鑑定其ノ他ノ事務ヲ行フコトヲ業トス」と規定し(第1条)、弁理士の資格は弁理士試験に合格するなど所定の条件を具える者が有する旨規定している(第2条及び第3条)。そして、同法は、弁理士でない者が、報酬を得る目的をもって上述した弁理士の業務を業として行えないこと(第22条ノ2)及び利益を得る目的をもって弁理士、特許事務所その他これに類似する名称を使用できないこと(第22条ノ3)を規定している。上記の弁理士のみがなしうる業務は、広義の特許管理の概念中に全て包含されるものである(甲第1号証乃至甲第7号証)。また、特許法が、在外者の特許に関する代理人であって日本国内に住所又は居所を有するものを「特許管理人」と称し在外者は特許管理人によらなけれぱ手続をし、同法又は同法に基づく命令の規定により行政庁がした処分を不服として訴えを提起することができない旨規定している(第8条)ことからみると、特許法においても、特許に関する手続をもって「特許管理」の一としていることが窺える。さらに、○○士と名称の末尾に「士」の文字を付けたものは、法律が資格要件を定めている名称として前記「弁理士」の外、弁謹士法の定める「弁護士」、公認会計士法の定める「公認会計士」など多数存在しているところから、一般に法律の定める資格を有する者の名称と理解されるものである。これらのことからすれぱ、「特許管理士」の語は、法律の定める正しい資格名称及びその業務内容の全てを具体的に認識していない一般の国民にとって、法律の定めにより「特許管理を業として行える資格を有する者」又は「弁理士法が定める弁理士の業務を業として行える者」の意を想起させ、弁理士そのもの又は弁理士と同一の業務を行い得る資格名称を連想させるものである。そして、講求人が本件商標をその指定商品「新聞、雑誌その他の定期刊行物」に使用するときは、該商品は、取引者・需要者に「特許管理士」なる法律の定める正規の資格を有する者に関連する記事を内容とするもの、または弁理士と同等の業務を行い得る「特許管理士」なる資格者により編集、発行されたものであるかのように認識させる。したがって、本件商標は、本来弁理士のみがなし得る業務をも扱うことのできる資格名称であると一般の国民に誤認させるものであり、その意味において弁理土に類似する名称と解され、これをその指定商品に使用することは、弁理士法が弁理士でない者の弁理士に類似する名称の使用を禁止していることに違反しひいては、特許制度の利用者である一般の国民が特許管理などの専門家である弁理士に寄せる信頼を害することとなるから、登録査定時において既に社会公共の利益に反していたものである。なお、被講求人は、管理士の文字を含む多数の商標登録例を挙げ、それらの登録例からすれは本件商標登録が無効事由に該当しない旨主張するが、本件商標は上述した理由により商標法第4条第1項第7号に逮反して登録されたと判断されるものであるから、被講求人が挙げる登録例と本件商標とは第26類に属する商品について管理士の文字を含む商標であるという点において共通しているとしても、単にその理由のみをもって本件審判事件の参考とするには適切でなく、この点に関する被講求人の主張は採用の限りでない。
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、その余の無効理由について検討するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
平成10年7月24日
審判長特許庁審判官 能條佑敬
特許庁審判官 田辺秀三
小川宗一
本件商標
持許管理士