この国の正義と欲情

 突然の携帯のベル。電話なんて滅多にないのに、こんなモノ持ち歩く滑稽さに秘やかな意味が出来る日。僕との繋がりを求めた電話の主と飲み屋兼ライブハウスで落ち合う約束。変な時間に寝て起きた夜勤明けの夜9時28分。
 駐車場に車が数台。どうやらライブはないみたいだ。けれど入り口に近づくとバスドラの低音が響いてきた。ドアの向こうは営業努力皆無のステージ。精一杯の愛すべきビートルズ。好きだけど嫌い。あなたの言葉が聞こえないよ。騒音の中でハイネケンとバドの乾杯。会社帰りの哀愁。ステージに上りたい2コの痛い魂。ビートルズでもいい。演奏も悪くない。でも...、MCが、進行が、その半端な気持ちが、君たちのライブ全体のビート感を台無しにしてるんだ。
 次に少し知ってるgayaの登場。アンプラグド系?癒し系?それは素直に楽しめた。独特な世界観。無理のない柔らかさ。もっと知られてしかるべき恥ずかしがりの才能たち。こんな田舎でなければ...。こんな田舎だからこそなのか。最近美しいトラメのレスポールを最近仕入れたロックな連れもいたくお気に入りのご様子。

「管理職になんてなるもんじゃないね。」
吐き捨てた言葉にタバコの煙が絡みつく。傍目には人も羨む待遇。揺るぎないハズの幸せ。でもそんなモノがこれっぽっちも見えないのに僕は前から気付いている。きっと彼自身もね。見切りをつけるタイミング、そして勇気。キッカケがないという言い訳。そいつも承知の重苦しさ。この国の正義。真綿で絞め殺されるちっぽけな幸せ。心のバランス。きっとみんな狂ってるんだ。知りながら狂気を抜け出せずにいる。君も僕も...。

 そしてオネーチャンのお店。気楽な嘘をついたり、つかれたり。そしてホントに疲れないように彼女たちの心を見透かしてみる。それは唯のお節介。でも無理した明るさは、頭を隠しただけの分かり易い悲しみを含んでいる。生命線、結婚線。右手は過去、左手は未来?。よくは知らない適当占いは、求めたい未来に通じているもの。
「私って平凡?」
ナンチャッテ占い師に聞いてしまう君のこころ。それは自分に問いただすべき問題なんだよ。そして本当に楽しみたい僕と楽しめない僕がここに同居しているんだ。そんなに信じないで、そんなに見つめないで。この心を追いつめないで欲しいだけなんだ。宇宙からの電波指令で入れ替わってしまう彼女たちの...、せめて名前だけは覚えたいと思う僕の純情。4勝1敗。その程度なんだな。でも君たちは人形じゃない。そしてこの仕事を痛がる心を隠しているだよ。
「結婚って何?」
「そんなの名前をつけること自体が間違えなんだよ...。」
「...ハンコ一つでは何も変えられないよ。」
突然の天使の詰問に反射的に答えてしまった。そして驚いた。誰が考えたんだ、そんないい殺し文句...。

そんな風に名無しの平凡な夜は更けていった。

分類不能。一体なんだ、これは。

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