2013



3月






3/29


 ふと僕は

 そんな静寂に気付いたんだ

 だって奴らは耳の奥で

 いつも僕をあんな風にけしかけるから


命に宿る感情複合体を

サミシサとか欲情とか

抱擁とか体液とか

分離したら透明になれるだろうか

血の匂いの残った純粋には

嘘が沢山混じっているのを

君は知ってるよね

そしてまた

もうひとつ嘘を混ぜるんだね


 ふと僕は

 こんな夜の入り口で

 淫美な静寂に魅入られたんだ

 蒸留したこころのミイラの

 キラキラした嘘をまだ呼吸する

 そのおぞましいほどの美しさにね


秒針を殺しても

時の流れが聞こえる

聞こえてしまうのさ

この命を呪っても

魔法は解けない

仕方ないじゃないか



  命の窒息の向こうでは

  どんな静寂が聞こえるだろう

  ふと僕は

  そんな静寂に目を瞑った

  君が聞こえた気がした


うん

確かにね


 




3/28


・夜の底辺には 

  静けさが眠っている



3/27


千の未来



鏡に映った千の未来

数多煌めく可能性の中から

灰色の平凡を選び取ったのは

一体誰だい


選べなかったんじゃなく選ばなかったんだ

痛いのはみんな嫌いなんだよ


鏡に映った未来の残像

可能性と時間が問い詰めても

殺されはしないさ

灰色に混ざればいいだけさ


お互いに興味が皆無な拍動が

冷えた沈黙から棘を抜いていく

架空に感触が少し付着しただけの

僕らと呼ぶには

あまりにも罪深い絶対零度


鏡は明日を知らない

明日にはだけど

願望の痕跡が混じる

繋がりたいんだ

意味じゃないナニカで




3/19




夜にキスした

優しくキスした

夜は静かに抱きしめてくれた

沈黙のまま抱きしめてくれた

僕はひとりのまま僕らを身にまとった


この暗闇のどこかに冒険はあって

同じくらいの剥き出しの残酷もあって

ひ弱で臆病なままなのに

痛くて血まみれになるのもいいかななんて

お気楽な僕も顔を出す


ため息は 小さなため息は

思わず零した 重さのないため息は

言ったら壊れる何かを代弁してしまう

僕は君に聞かれやしないかと

思わず夜ごと深呼吸したんだ

回収し切れなかった波動は

夢と暗闇と耳鳴りが隠蔽してくれるさ

きっと


夜にキスした

眠た気なキスをした

充満したエーテルを弾くように

とても優しい夜だから

こころの混線とかを願ってみたのさ


僕の声みたいな 

君のみたいな

色のない波紋が

誰かの鼓動とシンクロしていた


3/13



体温がひとつ


体温がひとつ ここにあります

さみしいなんて振り回さない

体温がひとつ ここにあります

振り回せばもっと 

痛みが増すだけだと

無駄に過ごした日々から

少しは学んだらしい

体温がひとつ ここにあります


あなたとはたぶん

コンマ数度の異差のある

赤い命が流れているらしい体温です

泪は隠せても

猫背は隠せない

小さくて間抜けな体温です


体温がひとつ ここにあります

サミシイを振り回している

体温を見つめていたりします

たぶん うらやましいんでしょう

目を細めていますよ


体温がふたつ この夜に浮かんでいます

温かいと冷たいを

感じてから消したりしませんか なんて

透明な声が 声にもならない声が

夜に吸い込まれて消えていくのを見届けたら

体温はまた 不思議で儚い夢に落ちるのでしょう



不安にならないしあわせなら

少しください


体温がひとつ まだ静寂を聞いています




3/7




蛍光灯の下の白く寡黙な夜

冷静は 孤独越しに 絶望を見つめている

あばらの奥の奈落から聞こえる

温度のないかすれた声を

今更暴いてなんになる


蛍光灯の下の白く寡黙な微睡み

冷淡は 明日越しに 



3/6






肉体から剥離した心にも満たないナニカが

並列した仮想の世界に迷い込み

意味もなく浮遊している


何が欲しいのか知らないまま

知らないことだけはでも知っていたりする

持って生まれた狡猾さが

人ごとのように見せるのは

求愛や発情や体温や抱擁や...

すぐに逃げ出せる自由

痛まず血も流さず

手に入るオモチャは

安っぽい大人の味がしたりするのだろうか


肉体から剥離した心にも満たないナニカが

並列した仮想の夜に迷い込み

意味もなく浮遊している




・詩情がまた


詩情がまた 僕に舞い降りてきて

僕はまた 宛名のない恋文を呟いてみる

夜は 思いの外想いが伝わりやすいので

どこかのだれかが 僕にとっての君になったりするんだ


僕が隠し持っているのは ただの特別で

何の役にも立たないトクベツで

ある種の人には 毒になり

ある種の人には 嫌悪を含んだ無意味になる


だけど僕はささやき続ける

僕は君という神秘に共振し

人殺しほどのエナジーを

夜に似たエーテルに解き放つ


睾丸とか心臓とか

眼球とか脳味噌とか

僕の中の震源が共犯に接続して

神秘と陳腐が混在した

キラキラの波動が宇宙を満たしていく


夜を聴いてごらん

僕が浮かび上がるから

怖いもの知らずなキュートを

汚れてしまう運命の白い指先を

狡猾な女に変えてみせるさ





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