恋と歌声のある風景

突然、歌声が聞こえたんだ
仕事場の裏の細いあぜ道あたりでね
恥じらいもなく張り上げた声だったから
小学生なのかなとか、一瞬思ったけれども
歌のサビのフレーズがスピッツのヒット曲だったんで
不可解に思ったんだよ 

見ると女子高生とおぼしき姿が
夕暮れ過ぎのものうげな薄暗がりを自転車で切り裂いていった
そして僕は不覚にも一緒に歌いたい衝動を覚えてしまい
実際にハモって歌ってしまっている光景を
妄想の中に見つけていた

甘酸っぱい歌詞が脳裏に浮かび
そして声さえ出してしまった彼女は
きっと少女らしい恋をしているのだろうなとか
自分勝手に想像して
驚きとニヤニヤで少し立ち止まってしまった

歌い出したい、踊り出したい
そんな衝動をコントロールしながら僕らは大人になった
僕の野性は今ではせいぜい窓を閉め切った車の中でしか
解放されないほど落ちぶれてしまっている
軽やかに羞恥を超えてしまった魂が羨ましくて
さっきの妄想の余韻とまだ少しだけ戯れているのさ

恋したら、みな詩人になる
当たり前の摂理だ 
溢れて溢れて止まらなくなるのさ 
幼稚な恋は隠蔽をあまり知らないから
そんなにも美しいのだろうか
いじわるな僕は彼女の恋が成就しないようにと願ってみる
口にさえ出せないまま終わる最初の切なさの記憶は
きっと墓場まで連れていける
かけがえのない財産なのだろうからね

 

 

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